○○も方便?
by.りさ様

「お前が好きだ」

ベッドの上のキールが僧微笑みながら言うのを、思わずシルフィスはぼぉっ

と見つめた。

この大怪我を押してまでこの王都に残りたい理由。

それがシルフィスを見つめていたいからだったなんて。

「・・・・・・・私も、好きです」

言いたい、だけど言えなかった言葉がようやく口に出せた。

そっと絆創膏が貼ってある頬に手を伸ばす。

触れた頬は、傷による熱のためか少し熱かった。

「駄目だな。お前に触りたいのに、この手じゃ」

小さく、自嘲するように呟いたキールの言葉にシルフィスは大きく頭を振る。

「怪我が治ったらいくらでも触らせてあげます。だから、キールの故郷で

静養しましょう・・・・・・私も付いていきますから」

「騎士はどうする。お前が今までがんばっていたことを、俺のせいで水の泡

になんてしたら、俺は一生後悔する」

眉をひそめ、視線を反らしたキールの頬を両手で引っ張り、

無理矢理視線を合わせた。

「私が!キールと一緒にいたいんです。騎士になれば自分の居場所が

出来ると思ってた。騎士になれば、何か先が見えると」

「だったら」

「でも、いいんです。キールの側が、私の居場所なんですから」

「・・・・・・・・・」

照れたようにそっぽを向いたキールの顔を、今度は無理矢理引っ張る

ことはしなかった。

熱のせいだけではなく、顔が真っ赤になっている。

それを見、自分が何を言ったのか改めて思い出すと、シルフィスまで頬が

赤くなってくる。

思わずシルフィスもキールの頬から手を離すと俯いた。

「・・・・・・お前が一緒なら、帰ってもいい」

小さく呟かれた言葉に、シルフィスは飛び跳ねるように顔を上げた。

「後悔するかも知れない。でもそれに負けないくらい、幸せにして

みせるから・・・・」

顔を未だ赤くしながらも、今度は視線を合わせて言われた言葉に、

思わずシルフィスは大きく、大きく何度も頷いた。

「お、おい・・・・・・・泣くなよ」

「そ、そんなこと言われても」

自分では止められない、歓喜の涙がシルフィスの頬を伝う。

未分化である自分。アンヘル族である自分。どんな自分でも、

キールが受け止めてくれるから。

動かし辛そうなキールの右手が、そっとシルフィスの頬を伝い、涙を拭った。

「シルフィス・・・・・」

視線が絡み合う。体が勝手にキールの側に近寄りたがっている。

ゆっくりとシルフィスの体が動き、キールの顔に近付いたとき。

どたーんっっっ

大きな音がしたかと思うと、ドアが勢いよく開いた。

「メイ!? それにシオン様にアイシュ様まで」

勢いよく開いたドアに、積み重なるようにして部屋になだれ込んできた

3人の姿が何をしていたのかを雄弁に物語っている。

「シオン様っ!! それにメイも兄貴も何やってるんだ!!!」

キールの怒声が部屋中に響きわたる。

「へへ、ごめんねーシルフィス。聞いちゃった〜♪」

積み重なって床に倒れていた一番上のメイが起きあがると照れくさそうに笑う。

「す・すみません〜〜。キールの体が気になって〜〜」

どう聞いてもいいわけにしか聞こえない言葉を吐きながらその下の

アイシュが立ち上がる。

そして立ち上がった途端、また自分の服の裾を踏んでこけた。

「うげぇ」

それがまた一番下に下敷きになっていたシオンの真上にダイビング。

潰れたカエルのような声が部屋に響いた。

「あ、すみません〜〜っっ」

慌ててアイシュが立ち上がるのを、メイが今度は転ばないように

手を引っ張って起こしてやる。

「何をやっているんだっっ!!!」

キールの照れ隠しの怒りの声があがったとしてもこの状況では仕方ないだろう。

「何って、覗き見に決まってんじゃねぇか」

先ほどの潰れたカエルのような声はどこへやら。飄々とした笑みを

浮かべながらシオンが立ち上がると、ベッドの側へと近寄ってきた。

「き・聞いてらしたんですか、シオン様・・・・・・」

思わずシルフィスの頬が赤くなる。覗き見ということは、さっきの会話も

全て聞かれていたと言うことで・・・・・・

「おう。悪いことをしたなー。せっかくシルフィスからキスしてもらえる

とこだったのによ」

にやにや笑いながらのシオンの科白はキールの怒りを助長するものでしか

なかった。

「そんなことならさっさと出ていってください!

こんな時にまで貴方の玩具でいる気はないんです」

「まぁまぁ、そう言うなって。訂正しとかなきゃいけないことがあるんでな。

それが終わったらさっさと出ていってやるよ」

その言葉に引っかかりを覚え、思わずシルフィスはキールと顔を見合わせた。

「訂正って、何ですか?シオン様」

怒りに燃えているキールでは話が進みそうにないので、慌ててシルフィスが

シオンに話の先を促す。

「あのなー。キールの怪我。あれ、デマだから」

「「はぁ!?」」

思わずシルフィスとキールの声がハモる。

「その腕の骨折やら体の怪我は本当だが、足の壊死。ありゃただの火傷だ。

ま、ただのと言っても重傷だが壊死するほどでもないし後遺症も残んねぇよ」

「それほんと、シオン!?」

メイに首根っこを掴まれるように揺さぶられ、シオンはがくがくと頷く。

いや、揺すぶられて頭が揺れていると言った方が正しいか。

「シオン様〜、本当にキールは大丈夫なんですね〜〜っっ」

同時にアイシュまで泣きそうになりながらすがりつくのだからシオンも

溜まったものではない。慌てて二人を引き剥がすと、大きく乱れた息を

吐きながらシオンは髪をかき上げた。

「本当だって。静養がいるほどの怪我ってのは本当だが、命に関わるような

もんでもないし後遺症もない」

「よかったです〜〜」

「はいはい、泣かないでよアイシュ」

思わずうれし涙にむせび泣いているアイシュとそれを宥めているメイと、

未だ事実に呆然としているキールは放っておいて、シルフィスは眉をひそめる

とシオンを睨み付けた。

「シオン様。冗談にしてもほどが過ぎます。どうしてこんな嘘を」

「んーー? 可愛い不肖の弟子のためだってば。おかげで告白できたろ?」

最後は呆然としているキールに向けての言葉。

思わずシルフィスも目を丸くする。

ということは、シオンにこうなるように仕向けられたと言うことで・・・・・・

「いやーー、俺様もこうもうまくいくとは思わなかったなーー」

得意満面な笑顔で一人大きく頷いているシオンに、その場にいた4人の

殺意が芽生えたのはこの瞬間だった。

 

コメント

777HITを踏まれたりさ様に、逆キリ番をお願いして・・・いただきました。

凄く可愛いキルシルです♪

シオン氏、この後いろんなところから冷たい視線を感じる事必須希望。

初々しいキールもシルもキュートでプリティ(同義語)です。

りさ様、無理云ってごめんなさいありがとうです。